事実は小説より奇なり 2

※これは事実に基づいたフィクションかもしれません

 

いつまでたっても帰る気配がないので、仕方なく切り出した。

「ねえ、確か今日って出かけるんじゃなかった?」

「そうだった。行ってくる!!」

 

「じゃあ、またね」

この時、私は感じていた。

「この子、今度は私に会いに来るのね」

って。

 

ところがその後、腰を痛めたのか、何故か立てなくなってしまった。

後にも先にもこんなことはその時だけ。

どれだけ重いモノを運んでも一度もぎっくり腰にもなったことが無い。

二週間、ベッドから起き上がれなくて、息子が家事を手伝いに来てくれた。

 

なぜベッドに寝たきりになったのか。

これが誰かか何かからのメッセージだったと、ずっと後になって気づくことになる。

けれども、避けては通れない道ってあるのだとも思う。

 

それから二週間後、やっと普通に生活ができるようになって、時々手伝いに行く知人の会社の仕事にも復帰できた。

案の定、彼はうちに来たがっていて、私が回復するのを待っていた。

夫にも話し、承諾を得て今度は夕食を食べに来ることになった。

 

「お邪魔しま~す!!」

満面の笑み。

まあでも、なんでも美味しそうに食べる。

こんなに喜んで食べる人を見たことが無かった。

聞けば、二週間程、殆ど食事をとっていなかったという。

個人的な事情なのでここで詳しくは語れないが、私が救いの神だったらしい。

 

「なら、またいつでも食べにおいでよ。ねえ、みんな?」

誰も反対なんかしない。

我が家はそういう家だった。

「本当に?本当にいいの?」

「うん、いいよ」

そう答えると、しばらく遠くを見つめていた彼の瞳が一瞬涙で滲んだ。

その頃の私には想像できなかった。

彼が笑顔の裏にどんな思いを秘めていたのか。

 

「もう遅いから今日泊って行きなよ。」

夫がそう言った。

彼は家に電話をし、泊まることになった。

買わなくちゃいけないものがあるというので、近くの店まで道案内することに。

 

雨が降っていた。

その道程、背後から視線を感じていた。

私は何も気づかないふりをして歩いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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