事実は小説より奇なり 30

※これは事実に基づいたフィクションかもしれません。

 

契約が済んで確実になったので、一応彼に引越しの報告をした。

初めて会ってからもう13年が過ぎた。

まさか、こんなに長い間繋がっているとは思ってもみなかった。

 

『今日死んでもいいように生きる』ということを人生のコンセプトにしている私は、もちろん引越しを機に

「一緒に生活しない?」

とは伝えると決めていた。

 

彼は今は他府県で医師として働いている。

でも私も何も変わらないし、彼も何も変わらない。

彼の仕事上、こんな山奥まで来るはずもなく、物理的には共に暮らすことなんて無いだろうとは思っている。

でも、息子が腰椎を失くし、骨の替わりに金属を入れて下半身不随になった時も

「社会復帰などありえません」

という主治医の言葉は、私にとっては『人間が考えた単なるお話』でしかなかった。

だから息子はああなったわけで、今もあの結果を説明できる人はいないだろう。

 

地球や生命の神秘を生物の一種である人間がすべて理解できるはずもない。

だから大部分の人が手放せないと考えるステイタスでも、何がどうなってそうなるかなんて天のみぞ知る、と私は考えている。

その代わり相手に執着もしないし、絶対的にこうしたいという欲望もないし、別の相手が現れたならそれが必然で

「ああこうなったのか・・・・・」

とドラマを愉しむのみ。

 

ただし、最後に

「あの時ああしとけばよかった」

という後悔はしたくないだけ。

 

彼はいつも私のすることについて

「おもしろそうだ」

と返答する。

「なら結婚しようか」

と珍しく私から男に伝える。

今更、法律の形に拘って婚姻届けを書きたい欲求は無い。

でも三度目の離婚の証人として署名したのは彼なのだ。

 

「無茶だよ」

と返事が来た。

無理だよ、ではないのね(笑)

 

現実主義の彼は、私が直感人間なので現実的じゃないと思い込んでいるのかもしれない。

誰よりも現実主義者であるのに、長い時間離れているため私をよく知らないのかもしれない。

敢えて私も説明しない。

 

火事の前に逃げる鼠や地震の前に飛び立つ鳩は、決してお花畑の夢物語ではなく、地球が与えたシックスセンスを使っているだけであり、それを素直に認めることが現実主義者だと考えている。

「目に見えることしか信じない」

という人は現実主義者ではなく、嗅覚や触覚、紫外線が視える他生物などを全否定している現実的でない夢物語に生きている。

 

彼はそういう議論が出来る人なので、もし今日システムがリセットされたらこっち側に来る人だとも思っている。

でも長い時間を費やした努力をみすみす捨てたくない気持ちもよく理解できる。

彼の人生は彼のモノなので、それを私はジャッジできない。

と同時に私の人生は私のモノなので彼に合わせることもない。

時間をかけてこういう価値観を真っすぐに伝えてきた。

 

私たち2人の子供をもうけないかという話になったこともあったけど、未だ彼とは『何もない』まま。

13年前に一晩中手を繋いでいた、ただそれだけの関係。

 

私には目指していることがある。

3度目の結婚の時、彼とは來世で結婚しようという話になった。

だけど、たった2年あまりで相手からの要望で離婚。

その話し合いの場にいたのか彼だ。

あれから既に6年が来ようとしている。

 

もう2度と逢わないって何度決めても守れない相手。

まだ消えない。

まだ必要ないと言ってこない。

彼が選んだ道の邪魔はしたくない。

 

互いに、同じなのかもしれない。

道が一致したら一緒にいるけど一致しなければこのまま。

彼が誰と結婚したとしても多分私たちは変わらない。

私が誰といても彼も変わらない。

完全に相手を受け容れる時、何もかもが全肯定され、人生すべてを尊重するしかなくなる。

 

もし、彼が私の中から薄れるとしたなら、彼以上に魂と魂で融合できる相手と出会ってしまった時。

だけどそれでも彼が私にくれた言葉は私の人生を助けたし、彼は私を『最後の砦』だと言った。

 

私と出会ったことで母親の事を好きになれたと彼は言う。

彼の母親には会ったことはないけれど、その人も全肯定するしかない。

どんな人だとしても、何と思われようとも、その人がいなければ彼はこの世に生まれ出ていない。

感謝しかできない人だと彼に言い続けた。

間違いなく彼は私を幸せにしたし、私も少しは彼の幸せに貢献できたのかな。

 

これから私と共に生きる人は、彼かもしれないし彼じゃないかもしれない。

でも、一度愛した人を嫌いになることはできない。

出会わなかったことにもできない。

後悔なきよう万物に愛を伝えて、遺りの時間は命に歓喜して生きて逝きたい。

 

さて、そこにいる人は一体誰ですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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