随筆 106

ここに越してきて、日本が少し好きになった。この風景が美しくて心惹かれ、高校生の頃から何度となく住居を探していた。

今は大阪の地元ととても近い場所だと感じるようになったけれど、以前は年に一度訪れればよい方だった。

住んでみて初めてわかることがある。

この美しい風景は、人々が様々な想いで守ってくれたものだ。

古都保存法のもと、都会のようなレジャー施設も建てられない。何も我慢せずに便利な方に流れると、すぐ近くの大阪の街並みとたいして変わらなくなっていただろう。

農家の方は棚田を守ってこられたし、家を建て直すにも細かい規制があり、ビルや高層マンションに住むことはここでは叶わない。

然しながら、その田園風景を観にくる大勢の観光客のあのホッとした表情を見ていると、日本発祥の地だけあって、飛鳥には、なにか日本人の本能的なものを呼び覚ます力があるのかもしれないと感じる。

外に出て風景を見れば、心が落ち着き、往復二時間かかる自転車での買い物も苦にならない。もうその不便さは、当たり前の日常という感覚に変わった。

畑仕事も始め、周囲の方々とよく話すようになった。農作業をする高齢の方々は、都会の高齢者に比べとにかく元気だ。80をこえていても、黙っていれば60代に見えたりする。

近くにはパン屋もケーキ屋もないので、畑のご近所さんから野菜をもらった返礼は、手作りのスイーツやパンにしている。

以前より家も庭も広くなって、家事も増えたけれど、畑仕事は思っていたより苦ではない。

無農薬で自分で育てるので、今まで料理をしてきた中でも、食の安心度が格段上がった。

机上の空論がキライな私には自給自足はピッタリだ。

この土地のサイクルを覚えながら、さらに自給率を上げていきたい。

便利なものに頼るために雇用されて働くなら、できる限り自分でやって雇用されない方法を考えたい。

本来は土地も住む家も服も食べ物も全部自分で用意したい。マサイのように牛のフンで作った家も素晴らしいと思うし、ゲルも魅力的だ。

世間がどう変わっても誰が何をしていても、自分の命の時間は自分で考えて使いたい。

それが此処に来てから、大きく進んだように思う。

古から飛鳥を守ってきた人々を想いながら、空を眺め、いま此処に在ることに心から感謝する毎日である。

 

今日も皆さんありがとう。

 

 

 

 

 

 

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