耕作放棄地を借りて、家族で野菜づくりをする……予定だった。
でもハムスターしかり、仕事しかり、同居するやつらはすぐに面倒になってしなくなった。
都会の真ん中からやってきた私たちを信用して繋いでくれた方々に申し訳なく、私一人で休みなく続けた。
往復16キロのホームセンターに石灰や油粕を買いに行くのもクロスで背中にしょって一日一袋ずつ。
すべて手作業。除草剤や農薬は一切使用しなかったので、夏は一日6時間は畑に居た。
川からの水くみも両手で15往復。
腕立てなんてしなくても筋肉はついた。
始めはうまくできた。
でも秋からまったく育たなくなり、肥料が足りないのかといろいろやってみたが全滅するものもあり。
時々参入する同居人が本の講釈を垂れるが、
「それはどこの土で山なのか、平地なのか、畑の前は何だったのか、北海道か沖縄か?」
と反論した。
なんでも独学の私は本などのノウハウを読まずにとりあえずやってみる。
ここの土地の3年くらいは気候の状態や四季の移り変わりを見て、化成肥料と農薬で土の菌自体が大きく不自然になってしまったかつての耕作放棄地を、目で確かめながら根気よく改良していくしかない。
そう、息子を歩かせようと決めた時と同じだ。
マンションのベランダでバラを無農薬でたくさん咲かせるにはたいてい3年はかかった。
人間の体質改善も短期的には3年、長期的には10年以上かかる。
それと同じだと思って3年はかかると覚悟を決めた。
「化成肥料をやらんとあかん」
と会うたびに隣人は言った。気持も分かる。
苗をくれたり野菜を分けてくれたりしていたから。
だからこそ、苗を無駄にないよう頑張った。
シェリーの糞や野菜くず、雑草はすべて堆肥に。
娘も時々参入するようになり、草木灰やもみ殻燻炭づくりを任せた。
これが良い結果を生んだ。
ミミズもいなくなっていたのにあちこちで見かけるようになり、3年目の夏くらいから野菜が育つようになってきた。
もちろん、色々試した結果、やった方がいいと思うことはやってみた。
例えば、トンネルとかマルチとか、畝全体にどっさり堆肥とか、そしてなにより劇的な効果が見えたのはエンジェルやリンジーたちの糞を肥料にし始めてからだ。
彼らには畑の中の雑草や、うちの野菜、うちでパンに使う発酵種など、素性の分かるものを食べさせている。だから糞が臭くない。
購入した同様の肥料はとてつもなく臭い。
アフリカで牛や豚の糞が、娘のやっていた養豚場のように臭くなかったのは、昔ながらの自然の草を食べさせているからだと思った。
だから多頭飼いするハムスターはじめ今いる彼らは皆来客が来ても気にしない程度の匂いだ。
もちろん1時間に1回各ケージを掃除して堆肥づくりのために糞を集めているので、衛生管理の問題もあるだろう。
リンジーなんて、自分の脚が糞で汚れたら見に行くまで大きな声で何度でも鳴く。脚を洗ったり、糞をとってやるとじっとしている。
バランスも気を付けて食べさせていて、糞を見る時
「ああ、彼らがうちの野菜や雑草を消化して、土にいい状態にしてくれてるんだな」
って思う。
私たち人間のものでもいいけど、合成洗剤や薬は使っていないにしても、変なものを飲んだり、時には素性の知れないものでできた何かを食べたりするので、それを畑に持っていってもリンジーたちの糞には負けるだろう。あと臭いも。(笑)
だけどやっぱり彼らの世話は大変だ。
早ければ3時から始まり、彼らが眠るまで続く。
おかげで両手がしびれ両膝も痛くて、川からの水汲みが出来なくなり、同居人が畑にも彼らの世話にも本格的に参入したのが去年の秋。
やっと力仕事を男に任せられるようになり、少しマシになった。
土が良くなってきていたので、ちょうど畑仕事が面白くなった時期。
2人、時々娘で、アンディ達の日向ぼっこ兼畑仕事を、リモートワークの昼休憩や(ランチは抜きで)早朝から始業までの時間を利用し、それぞれ自分で仕事を見つけてやり続けるのである。
土づくりは大変だった。
今も雑草が凄くて毎日処理に追われるけど、野菜の自給率は8割くらいになった。
今春、初めて上手くいったのはケールとキャベツ。
人参やジャガイモは昨年の方が良かった。
玉ねぎや里芋は昨年の収穫物が春までもった。
コリアンダーやオレガノは1年分はある。
保存食にしていたけれど結局傷んでしまったものもあったので、今年は旬のものは即食べるようにしている。
エンドウなんて誰も食べないので2株しか栽培してなかったけど、今年は種を買って一袋まいた。
土のおかげもあって豆ごはんがとても甘くておいしい。
何よりエンドウ嫌いの娘が豆ごはんばかり食べた。
知り合いからもらった豆で豆ご飯を炊いた。
嫌いだったあの味。
「そうか、豆ご飯を嫌いだった頃は本当の豆の味を知らなかっただけだったんだ」と家族で納得した。
多分、野菜は野菜だけの味ではない。
土にいる菌や虫の卵や、彼らが出す何かが一緒になって美味しいのだと思う。
バランスよく食べると美味しい上に身体も健康になるけれど、あれと同じではないだろうか。
バランスよく何かを食べた『野菜』たちは、また私の口に入っても美味しいのだろう。
昨年収穫した高きびの袋に虫がわいていた。
あんなに天日干ししてきっちり詰めたのに、こんなに『虫の素』が入っていたなんて(笑)
目に見えない虫か菌か知らないけれど、冬にはそれを炊いて食べていた。
あの美味しさも、虫になる卵?なども合わさった味だったのかもしれない。
皮膚常在菌が個々によって違うことは皆さんご存知だと思うけれど、うちの野菜はうちの土ゆえの味で、きっと同じような栽培法をとっても同じにはならないんだろう。
私自身も、途上国ばかりバックパッカー的に滞在して、いろんな人と握手しハグし、村で食事を頂き、虫も食べ、現地の水を飲んだ。
だから多分一般的な日本人とは皮膚常在菌や腸内細菌が異なっていると思う。
自分ってどこまでが自分?
細胞は周期的に入れ替わってるとしたら過去の自分と今の自分は同じ?
皮膚常在菌や腸内細菌は自分?
なんだか野菜と同じだね(笑)
循環を大切に。
万物に感謝。
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